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Petri FA-1
 

PETRI FA-1
C.C. Petri EE Auto
55mm F1.7

 ペトリが59年にペトリ・ペンタを発売し、いよいよ35mm一眼レフカメラ市場に参入しましたが、そのボディは当初から比較的小柄で、そのまま基本形を変えることなく70年代になってもV6IIやFTEまで発展して続きました。これに対し、64年のペトリフレックス7から全く別系統のボディが作られることになりました。そのフレックス7は、外光式ながらCdS露出計を埋め込んで絞りとシャッターの両方に連動させたモデルでした。ペンタVシリーズでは1/1000秒がしっかりとした精度で出せず、市販モデルは1/500秒を上限にしていましたが、その弱点を克服するべく、フレックス7では高速シャッターの安定化を図るために、シャッター幕の巻き取り側の二つの軸をL字に折り曲げて縦向きに配列させずに、横一線に並べた結果、ボディが横方向に一回り大きくなりました。

 フレックス7のボディはペンタVシリーズのような八角形ボディではなく、背面が膨らんだ四角形ボディ形状になっています。そして、このボディが67年に絞り込み測光ながらTTL露出計を内蔵させたFTに発展し、71年からは基本的なデータは変わらないものの、ホットシューが追加されてデザインが変更されたFT IIにマイナーチェンジされました。しかし、FTのボディ系列ではなかなか自動露出機は作られませんでした。それはペトリのカメラの中ではフラッグシップ機であったこことからくるのか、何かの理由で自動露出機構を組み込むのが難しかったのかは判然としませんが、FT IIの4年後になってようやくFA-1が発売されることになりました。
 60年代から70年代半ばにかけて、各社から外光式の連動露出計内蔵機を変更してTTL機が発売されるようになりましたが、その後しばらく経っても自動露出機は何か初心者御用達のような雰囲気があって、ハイアマチュアやプロが使うフラッグシップ機にはなかなか採用されませんでした。具体的には、トプコンは63年のウィンクミラーSから外光式ながらEE一眼レフを出し、翌年には世界初のTTL-EE機のUNIを送り出しますが、これらは廉価版としての位置付けだったレンズシャッター機でした。ニコンもAUTO 35で外光式EE一眼レフを出しましたし、リコーやマミヤもレンズシャッター機でEE機を出していました。それらを送り出していた各社とも、高価なフォーカルプレーン機ではEE機を出しておらず、当時自動露出のイメージが初心者・ファミリー向けのような感じであったことがはっきり伺えます。
 フォーカルプレーン機で自動露出を積極的に取り入れたのはコニカでした。65年の末に外光式CdS露出計を内蔵したオートレックスがフォーカルプレーン機としては最初のEE一眼レフカメラになりましたが、それでもTTL-EE機が最初に作られたのは68年のコニカFTAまで待たねばなりませんでした。これはレンズシャッターのEE機と同じ仕組みで、露出計の針を階段状の金具で押さえ込み、その位置を機械的に読み取って適正な絞り位置を算出する方法のもので、シャッター速度優先式になります。この方法では自動露出化が簡単に行なえるので、その後各社でTTL-EE機を出し始めますが、ペトリは69年にV6のボディをベースに、コニカと同じ方法でTTL-EE機構を組み込んだFT
EEを発売し、大変早いうちにこの市場に参入していました。Pマウントを採用していたメーカーは、そのマウントが仇になって、自動露出機を出したくてもなかなか上手く行かなかったのが本当のところでしょうが、旭光学が電子シャッターを開発し、71年にやっと絞り優先式TTL-AE機を完成させました。この後で、一気に各社共に自動露出機を開発し、あっという間にそれが広がって行きました。
 ペトリはFT
EEを作っていて、それを72年にマイナーチェンジしてFTEとして引き続き販売していましたが、あくまでもフラッグシップ機はFT/FT IIでした。そのペトリがいよいよぺトリペンタV系のシャッター速度優先式自動露出機構をFT IIに組み込んで、75年に発売開始したのがこのFA-1でした。75年当時は各メーカーともボディの小型化に走り始めており、76年にはカメラ業界では革命的なカメラとなったキヤノンAE-1が発売され、大いに売れたモデルになりました。FA-1は販売されて間もなくこの流れに逆行した感じになってしまい、この大柄なモデルは残念ながら売れ行きはすぐに芳しくなくなってしまいました。結果として、新たな小型軽量の一眼レフを開発しつつ、この大柄なボディを時代に反してM42マウント化させて、海外で色々な銘柄に名を変えて売りさばきました。しかしそれも長続きせず、いよいよ77年には倒産の憂き目に遭います。
 FA-1はペトリとしては満を持して出したフラッグシップモデルでした。この他にTTL連動機のFT
II、TTL-EEのFTEとフルマニュアルのV6IIを併売していましたが、大柄なFA-1とFT IIが1/1000秒を備えていて、小柄なFTEとV6IIは1/500秒までになっていて、何かダブりそうでいながら一応の差別化が図られているのが面白いです。FA-1はペトリの特徴であった、一軸回転式のシャッター・ミラー連動機構を使っておらず、FT II後期型から始まる一般的な平板を加工したカムやレバーを組み合わせたものに変更されました。TTL測光は接眼部の両脇にCdSを配した一般的なもので、平均測光になります。そのスイッチはFTEと同じように、巻き上げレバーをチャージするとONになり、シャッターを切るとOFFになります。ファインダー右横に絞り値がプリントされていて、針がこの上を動いて適正な値を示します。
 レンズはEE表示のあるものは普通に連動しますが、ないものは絞込み測光で絞り値を確認してからファインダーから目を離して絞りを所定の位置に合わせるか、絞込み測光でファインダー内の「○」マークの位置に定点合致式で針を合わせることになります。ASA感度ダイアルがFT
IIまでは巻き戻しクランク横に独立して付けられていましたが、FA-1ではFTEと同じ形でシャッターダイヤル内に収められています。シャッターボタンはペトリのお得意のフロント斜め押しタイプで、大きな指当て皿が追加されてかなり押しやすいです。これもFTEと同じですが、ストロークの長さが気にならなくなります。
電池はFT系がH-D型だったのに対し、FA-1は小ぶりなSR44を1個使うようになりましたが、軍艦部の向かって右前に電池室があるのはペトリフレックス7から変わらないデザインです。

 

 FA-1の底部内側。ペトリ・ペンタの後期からずっと続いていた一軸カムシャフトでの、巻き上げ・シャッター・クイックリターンミラー・絞りの制御・シンクロタイミングの同調機構を、FT II後期からは画像のような平凡な平板を加工したカム/レバーでの連動機構に改めました。一軸カムシャフトは低気温時に不具合が生じやすいことからくる措置だったそうですが、この平板カムの機構も材質的な問題から故障が多く、特にシャッター回転軸の周辺に問題を抱えたものが多いようです。しかし、早い時期に不動になってしまうものが多かった結果、逆に露出計が酷使されずに助かった固体が多く、シャッター周りは修理がたやすいために、手を入れると元気に戻る場合が多いです。

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Petri FA-1 Black finished
 

PETRI FA-1
Black finished

 FA-1には普通にブラックボディが併売されていました。FTEは1年遅れでB&Mとしてブラックボディを販売しましたが、FA-1にはこうしたタイムラグはないようです。ちなみに、ペトリのカメラには裏蓋を開けるとフィルム室の壁に数字のスタンプが押されていますが、この印字が製造年の下一桁+その月を指すそうで、それによると上記白ボディが「511」ですから75年11月、このブラックボディが「71」ですから77年1月の生産と言うことになります。FA-1の発売が75年10月からですから、奇しくも初期のボディとペトリが不渡りを出す直前の頃の個体になります。黒く塗られている以外に異なる点は見られません。
 ファインダーの情報は右側面に絞り値がプリントされていますが、「2.8」の位置の左上に定点測光用の「○」マークが付いています。ピントグラスは他の多くのモデルと同じくマイクロプリズム式ですが、フレネルの溝は細かく気にならず、結構ピントの山がつかみやすいです。

 レンズはC.C Petri EE Auto 55mm F1.7が標準で、FTEのものと変わりありませんが、FTE B&Mに用意されていたMCレンズをFA-1に装着して販売していた記録はありません。しかし、自分のFTEの白ボディにはMCレンズが付いていたので、注文時に選択することはもちろんできたのでしょう。逆に、FTEにはありませんでしたが、FT用に作られた55mm F1.4をEE Auto化して復活させたものがFA-1用に用意されていました。末期はレンズのゴムローレットのデザインを少し変更させたものもあるようです。
 ところで、FA-1は60年代半ばのFlex
7の基本形を発展させたものだけに、ボディは結構大きく重いです。トプコンREスーパーも大柄なカメラで、四角いボディデザインも似たイメージがありますが、実測で比べてみると、吊り環のアイレットを除いた横幅で、ペトリFA-1の方が数ミリ大きかったほどです。しかし、この大き目のボディが安定したホールド感を与えてくれるのは間違いなく、例えばペンタックスMシリーズやオリンパスOM-1等に馴染んだ方には違和感があるかも知れませんが、トプコンを長らく使ってきた自分には大変持ちやすいボディデザインです。ともすると、軍艦部の角が四角いと持ちづらいような錯覚があるようですが、実際のところ後ろの角の曲率を大きくして、背面の中央部を膨らませることで、かなり手にフィットしてくれます。そして、ペトリが国内向けスピゴットマウント機で一貫していた斜めシャッターボタンも大変押しやすく、また、FTEから標準装備された指受け皿は、ストロークがどうしても長くなりがちな針押さえ式のシャッター優先AE機の欠点を上手く補ってくれるような感触になります。カーレースやスポーツ撮影等、ここぞと言う一瞬を狙う場合にはもちろんストロークの短さが求められるでしょうが、一般に多く使われるスナップや風景撮影ではもちろん全く問題ありません。
 これまで標準レンズ以外にもEE Autoの28mmや135mm、85-210mm等で撮影してきましたが、ボディに対し細身のレンズが多く、ともするとホールドがアンバランスになるかと思いきやそうでもなく、細身すなわち開放値の暗いレンズは軽量なので、ボディがその重量に負けてしまうこともなく、良い安定感がこんなところからも生まれるように思います。肝腎の写りはレンズにもよりますが、少なくとも55mm F1.7は大変良く写ります。現在所有する様々な銘柄の標準レンズの中で比較してみましたが、その実力は結構上位に位置しそうです。

 

EE Petri C.C Auto 55mm F1.7 作例
 

作例「霧の登山道」
PETRI FA-1 C.C Petri EE Auto 55mm F1.7

 使用フィルムはフジカラー記録用100(G100と同じもの)で、ナニワカラーキットで現像し、エプソンGT-X980(フラットベッドスキャナー)を使用して3600dpiで取り込んだものを、Photoshopで横1280ピクセルに縮小したもの。撮影時はスカイライトフィルターとレンズフードを使用。シャッタースピードは1/30秒で、絞りはオートです。霧の中での撮影だったので、草木のシャープ感は望めませんが、トーンが豊かで奥行きの感じられる描写を見せてくれます。
 

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