TOPCON CLUB(トプコンクラブ)〜トプコン・マクロレンズテスト

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 テストレポート〜トプコン・マクロシステム
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トプコンマクロシステムの全て

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 東京光学は1957年のトプコンRのデビュー時から、積極的にマクロシステムの充実を図ってきました。当時ライカM3ショックと言われたほど完成されたカメラが世に出て、距離計連動式レンジファインダー機に行き詰まりを感じていた国産各社は、その活路をペンタプリズム式一眼レフカメラに求めるようになりました。それまでフォーカルプレーンシャッターのカメラを持たなかったトプコンにとって、比較的早くにトプコン35Sに代表されるレンズシャッター式レンジファインダーカメラから、新たに一眼レフを開発してそれに主力を移すことは、システムの互換性等を考慮する必要もほとんどなかったため、さして大きな障害はありませんでした。これに対し、元来フォーカルプレーン式レンジファインダー機をメインに据えていたメーカーは、切り替えが遅れた感がありました。
 トプコンRの登場時点での国産ペンタプリズム式一眼レフカメラは、まだミランダTとアサヒペンタックスのみで、ニコンは59年後半に登場した「F」から一気にSLR化を進めました。もう一方の雄、キヤノンはキヤノンフレックスをニコンFとほぼ同時期に発売しましたが、キヤノン7等のレンジファインダー機に力を注いでいたため、一眼レフのシステム化が遅れてしまいました。この年は58年に発売されたズノーやミノルタSR-2等も含め、全11機種の35mm一眼レフカメラが揃い、時代は確実にレンジファインダー式のフォーカルプレーン機から離れつつありました。
 前述の通り、トプコンには距離計連動式フォーカルプレーン機がなかったので、当初から一眼レフに全力を注ぎ込むことができました。事実、廉価版として国産初のペンタプリズム内蔵のレンズシャッター式一眼レフであるトプコンPRは、トプコンR発売のすぐ後にカタログに加えられ、これを矢継ぎ早にモデルチェンジしてシリーズ化していきました。エキザクタマウントを採用し、フラッグシップ機としての貫禄を備えたRシリーズは、いくつかのマイナーチェンジの後、63年にデビューした世界初のTTL露出計連動式一眼レフカメラであるREスーパーへと発展し、大きな節目を迎えることになったのです。
 R時代の半自動絞りや、RIIIでの外付け式露出計では、レンジファインダー機には非常に困難な拡大撮影を簡単にこなせると言う一眼レフの利点を、まだ完全には活かし切れていませんでした。つまり、せっかく拡大撮影をベローズや中間リングえお差し挟むことだけで、フィルムに写る拡大画像をファインダーで確認できると言う一眼レフのメリットは、確かにレンジファインダー機に比べてはるかに大きいものの、実際の撮影において、その露出決定等ではまだまだ面倒な作業を要していたからです。こうした点を一気に解消したのがTTL露出機構です。どんなレンズであっても、そのレンズを通した光の強さを測るのだから、それまでのマクロ撮影で煩わしかった拡大倍率に応じた露出の加算を考える必要がなくなった訳です。
 これにより、REスーパーでは一層のマクロ撮影機材の充実を図ることになりました。考えてみるとこれは一眼レフカメラメーカーからすれば至極当然の流れなのですが、意外にもマクロは日陰者的なイメージが強かったせいか、各メーカーともシステムの充実には時間を要しました。簡単に言うと、中間リングやクローズアップレンズ(フィルター)があれば、標準レンズでもTTL機ですと手軽にマクロ撮影ができるので、専用アイテムを新たに開発しなくても事足りた訳で、多くのメーカーは他のシステム充実に力を向けて、マクロシステムは最小限に留めてお茶を濁していました。しかし、専用に設計されたものとは如実に違いが表れます。ここに国内メーカーでいち早く関心を示していたのが東京光学だった訳ですが、如何せん、地味な世界ゆえ、それが売り上げに貢献したかと言えば、必ずしもそうとは言えないものでした。優れた技術を持ちながら、60年代後期にはカメラやアクセサリーの売り上げが芳しくない状況になり、70年代後半には忘れ去られたメーカーになってしまったのです。実際、この頃社内でのカメラ部門の売り上げは全体の10%程度だったとのことで、やはりしっかりしたシェアを持っていた医療機器や測量機等に押されて、新たに優れたものを開発するゆとりもないまま尻すぼみになっていったのですが、逆に考えると63年デビューのREスーパーから始まるカメラが。81年のスーパーDMの最終ロットまで大きな変更もなく生き長らえたのであるから、基本設計が以下に優秀であったかと言うことの証明になるでしょう。やはり世界初のTTL機でありながら、初めから開放測光+レンズの開放F値の自動伝達とその補正システムを達成していたことは、とてつもなく大きな意味を持ったことだったのです。
 ところで、REシリーズのマクロシステムは以下のようなものがあります。
【レンズ】
マクロ・トプコール5.8cm F3.5
(可変中間リングとの併用で、∞〜1/2倍の撮影が可能)
マクロ・トプコール13.5cm F4
(可変中間リングとの併用で、∞〜1/5倍の撮影が可能)
REマクロ・オート・トプコール58mm F3.5
(可変中間リングが内蔵され、自動絞りやTTL露出計と連動化したもの)
マクロ・トプコール30mm F3.5
(拡大専用で、ベローズとの併用で最大9倍までの接写が可能)
クローズアップレンズ各種
(49mm径がNo.0~2までの3種、62mm径がNo.1と2、他に58mm・67mm径のものが1種類ずつ有り)
【中間リング・ベローズ関連】
中間リングNo.1〜No.3(格9mm/15mm/30mm幅、EXマウントで連結)
自動中間リング(9mm幅で、自動プリセット機構を持つ)
REオートリング(29mm幅で、TTL機構に完全連動)
可変中間リング(ヘリコイド機構を持った中間リング)
リバースリング(49mm・62mm径の2種)
蛇腹I型(折り畳み式の簡易型)※R〜REスーパー
蛇腹II型(上下2本ずつレール固定式で、蛇腹は6角断面)※RII〜REスーパー初期
蛇腹III型(上下のレールを分割可能に)※REスーパー前期
同、複写I型(スライドコピア)
蛇腹IV型(レールを銀梨地、マウント部を艶消し黒仕上げに)※REスーパー後期
同、複写II型(オフセット量が大きくなる)
マクロスタンド(蛇腹II型からIV型まで共通)
REオートベローズ(半自動・モノレール化、4角断面)※スーパーDM
REオートベローズ用マクロスタンドA
同、スライドコピア
MT-1/MT-2(30mmレンズ専用のマウントアダプター兼中間リング)
【ファインダー関連】
ウェストレベル・ファインダー(折り畳み式で4.5倍ルーペ付き。銀梨地と黒仕上げの2種)
高倍率ウェストレベル・ファインダー(黒仕上げの固定式で視度調整可。6.5倍で全画面確認可能)
 ※以上、REスーパー、スーパーDM用。別にR〜RIII用ウェストレベル・ファインダー有り
マグニファイヤー(視度調整可。中心部を2.5倍に)
アングルビュー・ファインダー(L字形で、等倍)
接眼レンズアダプター(マグニファイヤー等をねじ込み、蝶番で倒して使える)
ファインダースクリーン各種(全9種類)※年度によっていくつかのバリエーション有り
【顕微鏡関連】
顕微鏡アダプターII型(単筒で、折り曲げ可能)
顕微鏡アダプターIII型(長筒の固定型)
蛇腹式顕微鏡アダプター(接写台と併用)
【その他】
接写台I型(クランプで机等に固定。台座の板は無し)※R〜REスーパー前期
接写台II型(専用台座への固定式で、シャフトは90cmまで伸ばすことが可能)
二又レリーズ
18%グレースライド(露出決定用のガラス)
オシロスコープユニット
 以上がREスーパー初期からスーパーDM時代に発売されたマクロ関連のアクセサリーになりますが、トプコン・ユニ〜IC-1オートのUVマウントカメラ用のものや、70年代末に輸出専用で売られていたKマウントカメラのRM300用のもの等を含めると、さらに膨大なものになります。このように、60年代後半以降のカメラ部門の苦しい財政事情の中にあって、接写関連のシステムを充実させてのは、開発スタッフが当初から強くマクロを意識していたことによります。実際、REスーパーが発売されてからは、東京光学でマクロ撮影の指南書である『接写の魅力』『顕微鏡写真技法』『接写技法』等を出版し、マクロフォトコンテストも定期的に開催していました。このようにして、マクロ撮影を一般に浸透させようと努力したものの、ニコンやキヤノンがそれを行うのとは訳が違います。結局は一部のトプコンユーザーの心を虜にしたものの、大勢からするとあまり話題になることもなく、ひっそり消え行くことになってしまいました。
 さて、いよいよマクロ・トプコールレンズ各種の実力を確認してみましょう。

マクロ・トプコール5.8cm F3.5

MacroTest2a.jpg  まずは最も馴染みの深い58mmレンズについてですが、このレンズは63年のトプコンREスーパーのデビューとほぼ同時に発売されたマクロレンズで、横の画像の中の右上に可変中間リングから外した状態がレンズ単体の姿で、本来ヘリコイドリングを持たない専用レンズになります。フィルター径は49mmで、他の多くの交換レンズと共通でした。
 レンズのコーティングはアンバーがメインで、マゼンタやオレンジのものもはっきりと確認できます。
 標準のREオート・トプコール58mm F1.4/1.8はガウス型になるのに対し、マクロの5.8cm F3.5はクセノタール型になります。東京光学ではLマウントのレンズからそうでしたが、レンズの設計コンセプトが一般の「中心部で最良の解像度になる」設計と異なり、「全面で最良となる」設計に拘りを持っていました。ですから、開放時と絞り込んだ際では、焦点移動などが微妙に見られることもあったようですが、平均して最も良いところを取るように作られています。これは『写真サロン』誌などのレポートではっきり解明されていますが、レオタックスがさっぱり冴えない中でもトプコール・レンズは賞賛されていました。REスーパーの時代もまたレンズの優秀性は認められていましたが、マクロレンズには焦点移動や収差の影響の少ないとされるクセノタール型を選択しているのは面白いことです。しかし、元々レンズの明るさを求める必要がないところでは、絞り込むことでの影響などをあまり考慮しなくても良い訳で、全画面で平均的に良好な画質を得易いクセノタール型を選択するのは当然と言えば当然です。
 絞りリングの外に自動プリセットレバーが出ていて、これを向かって右に15度倒し込むと、あらかじめ決めておいた絞りが開放になり、自動絞りがチャージされます。二又レリーズを使うか、向かって7時の位置にあるボタンを押すと、所定の絞りまで一気に絞り込まれる仕組みになります。その絞りは8枚構成で、最小絞りはf22までですが、拡大倍率を上げるにしたがって明度は落ちるので、これ以上の小絞りは必要ありません。
 このレンズの大きな利点は、可変中間リングを併用することで、何の違和感もなく無限遠から1/2倍までの拡大撮影をこなせることです。また、リバースリングを使って反転させての撮影では、どうしても拡大率の高い撮影になって露出低下をライトやストロボで補うことになりますが、このレンズは前部以外は鏡胴のみの細身なので、レンズの左右の脇からライトを被写体に照らす際、その角度をレンズの光軸から鋭角に設定できるため、レンズ自体が影になる割合がかなり少なくなる利点があります。

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 作例はマクロ・トプコール3.5cm F3.5を可変中間リングに取り付け、トプコンREスーパーで撮影したものです。フィルムはアグファVista100で、ナニワカラーキットで現像したものをエプソンGT-X750(フラットベッドスキャナー)を用いて3600dpiで取り込み、横640ピクセルに縮小してアンシャープマスクをかけたものになります(以下の作例もレンズ以外同じ)。
 近所の銀杏並木で古い表皮が剥がれかけたものを撮りましたが、いくつもの色の層が見られるので、色合いの変化をチェックするには具合が良いと思われました。また、ピントのボケ具合をチェックするため、右側の辺りに焦点を合わせておき、左に向かって幹のカーブに沿ってボケるのを確認できるようになったのも好都合でした。なお、シャッタースピードは1/125秒で、絞りはf5.6です。
 色合いは結構忠実で、思ったほど冷色系の色合いは見られませんでした。60年代のトプコールレンズは、どちらかと言うと冷色系が多いのですが、フィルムとの相性が良かったのか幹の色を良く再現しています。シャープネスも全く問題はなく、ボケ具合も滑らかです。微妙なトーンもしっかり写っていて、以前から評価の高いレンズであったことが良く分かります。
 

REマクロ・オート・トプコール58mm F3.5

MacroTest3a.jpg  基本的にREマクロ・オート・トプコールの58mmは、上記マクロ・トプコール5.8cmレンズに可変中間リングがヘリコイドリングとして一体になったもので、これによりREスーパーが誇るTTL露出・自動絞り機構と連動できるようになりました。レンズ構成自体は自動プリセットのマクロ・トプコール58mmは同じ設計になります。
 コーティングもそれまでと変わらず、アンバーを中心に一部で強いマゼンタが見られます。マクロ・トプコール5.8cmに比べて若干オレンジが弱まり、奥のシアンが強まってブルーに見えますが、これらはあくまで微妙な違いであって、基本的にアンバーコーティング中心の同じものと見るべきものでしょう。
 かなり前玉が奥まっているのもマクロ・トプコール5.8cmと同じです。よってレンズフードは不要なため、他のREオート・トプコールレンズに供給されていた、専用バヨネット式のレンズフードは設定されていませんでした。もし屋外撮影で安全を期すなら、保護用のUVないしスカイライトフィルターを装着した上で、トプコンRのオート・トプコール5.8cm F1.8用フードを使用すると良い。と言うのも、このレンズフードの止め方は、鏡胴先端から5mmほどの位置に彫られた細い溝に、フード側の薄い歯を噛み込ませて抜けないようにしたもので、マクロ・トプコールにはない溝を、フィルターと鏡胴との間にできるわずかな隙間(段差)が補ってくれる訳です。違和感は一切ないのでお勧めなのですが、今はR用オート・トプコールのレンズフード自体がなかなか見られなくなってしまった。もちろん49mm径のねじ込み式フードでも良いのですが、ちょっとフードが深くなり過ぎて四隅がけられる可能性があるので、チェックが必要になります。
 さて、このレンズは第3期のREスーパーが市場に出た頃のレンズで、60年代後半に発売されました。ヘリコイドの繰り出し量は30mm強で、可変中間リングにマクロ・トプコール5.8cmを取り付けたものとほとんど同じです。ただ、可変中間リングの目盛りにはそのまま繰り出し量がmm表記されているのに対し、このREマクロ58mmレンズでは、一般的使用に合わせて焦点までの距離をmeter / feetの併記にしています。しかし、ヘリコイドを繰り出すと、鏡胴側に刻まれた倍数が、繰り出し量に応じて表れてくる(0.1xから0.5xまでの5段階に0.25xを加えた6つの表記)のは大変有り難い配慮です。最短撮影距離は25cmで、この時の倍率は1/2倍になります。

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 このレンズも解像力に関して以前から定評があって、トプコンの一眼レフファンは必ずこのレンズを使うと言われた程人気があるだけに、実力は文句なしです。作例も同一条件で撮ったものですが、手持ち撮影していたため、わずかに撮影位置が左に寄って近付いている点で異なるのはご容赦下さい。しかしご覧の通り、写り自体にマクロ・トプコール5.8cmと変わりはないです。かなり線が細く、階調が豊かなままうっすらとバックがボケていくような柔らかさと、焦点の合ったところはどこまでも解像してしまうようなシャープさを併せ持っています。非点収差も確認できないし、より派手な被写体でも色による焦点移動も見られません。直線的なものを写した他の画像でチェックしたところ、周辺部の歪曲も皆無で、正に優等生的なレンズであると言えるでしょう。
 

マクロ・トプコール13.5cm F4

MacroTest4a.jpg  このレンズの発売は、マクロ・トプコール5.8cmと同じく、REスーパーが発売されて少しした頃で、64年には市場に現れていました。やはりレンズ単体ではヘリコイドを持たない専用レンズですが、右側の画像のように可変中間リングを併用することで、∞〜1/4倍までの拡大撮影が可能です。
 レンズ構成を見ると、REオート・トプコール135mm F3.5がテレ・ゾナー型であるのに対し、マクロ・トプコール135mmはトリプレット型になります。明るさを押さえても問題のないマクロレンズでは、周辺部の収差の問題が起こり易い三枚玉でも、イメージサークルの大きめなレンズの周辺を切り取る形でこの問題がクリアできます。ですから無理に開放値をF3.5にすることなくF4に留めたのでしょう。収差や歪曲の矯正のため、たくさんのレンズを複雑に配するより、やはりできる限りシンプルな構成が望ましいのですが、当然明るさは犠牲になる訳です。
 レンズコーティングは他のRE系のトプコールと同じく、アンバーが目立つ中にマゼンタとシアンのコーティングが見られます。マクロ5.8cmと同様に自動プリセット絞りを持ちますが、5.8cmレンズが絞りリングの外に見られるノブを下に押し下げてセットするのに対し、マクロ13.5cmレンズはダブルリング式で、前に付いている方を回転させて所定の位置に絞られていた羽を開放にセットする形になります。これでセットされるとリングは元に戻りますが、中ではスプリングの力で所定の位置に戻ろうとする絞りを押さえていることになります。また、この状態で希望の絞りに変更させることもできます。向かって左下の部分に開放を解除する絞り込みボタンが出ていて、その横にはレリーズ穴が見られます。
 ところで、70年代までは、一般的に望遠マクロレンズは各社とも105mm近辺のものが相場で、しばらく後に一部のメーカーから200mm等も現れますが、トプコンはなぜ当初から少し焦点距離の長い135mmを使ったのでしょうか。それは望遠マクロが使われる状況と大いに関連します。外でマクロ撮影をする際には58mmですとかなり被写体に近寄ることが多くなります。例えば植物や昆虫・小動物などの撮影ではかなりのクローズアップになりますが、レンズと被写体が触れるほどになることも当たり前でしょう。被写体が植物ならともかく、小動物ですとあまり近寄れない場合も多く、一歩離れた位置から撮らざるを得ませんが、105mmではその位置ではアップし切れない場合も出てくるでしょう。かと言って、あまり大柄な焦点距離の長い望遠レンズにベローズや中間リングをかませて仰々しくマクロ撮影をするまでもない場合が多い上、画質の上でもシャープさを保ちたい場合、135mmと言う焦点距離はなかなか好都合になります。背景のボケも105mmよりは大きくなりますが、そう大幅に変わるものではありません。被写体が大きく写り過ぎるなら少しだけ後退すれば良い訳で、被写体が小さくなって近寄らざるを得ない場合より楽なことは確かです。つまり、使い勝手そのものが105mmと変わることはまずないばかりでなく、撮影の条件に幅が広がると言うことになります。なぜ他社が105mmに拘ったのかははっきりしませんが、トプコールの採った路線は使う側から見れば決して間違いではなかったと思われます。

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 このレンズを実際に使ってみますが、可変中間リングにセットすれば無限遠までピントが合うので、そのまま普通の135mmの望遠レンズとしても使えます。気軽に外で花や昆虫の写真等を撮るにはこれで充分でしょう。しかしこの場合、最大にヘリコイドを繰り出しても拡大率は1/4倍弱までになり、あまり大きくクローズアップされないので、拡大撮影を中心に考えるのであれば、やはりベローズにセットして腰を据えて撮影する方が良さそうです(ベローズで等倍まで)。フードはREオート・トプコール100mmレンズと共用のバヨネット式のもので、屋外撮影では必須です。できればウェストレベル・ファインダーや二又レリーズも用意しておけば万全ですが、ファインダースクリーンの変更はあまり必要ないでしょう。と言うのも、やはりむやみに明るくしていない専用設計のレンズですから、プリセットで絞りを開放にしても絞り込んでも、焦点の移動は見られないからです。普通に開放で構図決めとピント合わせをして、撮影時に絞り込めば何も問題ありません。ただ、REシステムが連動していませんから、露出決めの際には一旦絞り込む必要はあります。
 この可変中間リングとベローズがあれば大半のマクロ撮影はこなせますが、可変中間リングだけでもリバースアダプターがあれば等倍以上の拡大撮影が可能です。この際にはフードは不要です。と言うのも、マクロ・トプコール135mmは、リバース時には鏡胴本体がフードの役割を果たすのは当然として、ライティングもちゃんと考慮されていて、この鏡胴のマウント側が細くなっています。これにより、ライト/ストロボの照射角度において、多少なりとも自由度が高くなります。画質については、シンプルな3群3枚のトリプレット型のためか、反転させての低下はほとんど見られません。
 発色は若干冷色系ですが、71年『カメラ毎日』別冊『カメラレンズ白書』では「予想以上に黄色っぽいスライドになった」との表記がありますが、これは使うフィルムによっても大きく変わるものですし、デジタル時代の今ではあまり問題ではないでしょう。実際、作例では赤味の強く出るアグファVista100を使いましたが、かなりナチュラルな色合いになりました。逆にフジカラーを使っていたら、青味の強い画像になったでしょう。それよりも、周辺部まで均一な画質を保ちつつ、収差の影響もほとんどなく、フレアーによる開放絞りの画質低下もまず起こらない点は立派です。ただし、これは条件が揃っている場合での話で、逆光時のゴースト等はあまりきれいなものではありません。シャープネスはそれなりにしっかりしていますが、これも光源の位置によって絞り羽の影響が出やすいでしょう。切れ味の鋭いレンズタイプのレンズではないです。しかし、絞り羽は8枚ですから、ボケそのものは比較的きれいな方です。全体的に卒なくまとめられたレンズであると言えます。
 

マクロ・トプコール30mm F3.5

MacroTest5a.jpg  このレンズは国内初になる拡大専用の高倍率マクロレンズです。当初4群5枚構成のものを発表しましたが、67年頃の発売時には4群6枚構成のものに改められていました。ライツにもフォタール12.5mmや25mmがありましたが、国内では間違いなくトプコールが最初のもので、しばらくの間、他社では超接写レンズが出なかったので、このレンズ用のアダプターを改造して他社のカメラに使ったユーザーも多かったそうです。
 マウントは顕微鏡と同じJIS / DIN企画の20.32mmのネジ込み式で、今で言うRMSマウントになります。専用のマウントアダプターを介してボディに取り付けますが、そのアダプターにはヘリコイド機能はありませんので、ベローズユニットの台座を使って、このレンズをセットしたカメラをレール上で前後させてピント合わせをするか、ベローズそのものにアダプターを取り付けて使うかになります。平たいアダプターMT-1を直にカメラに取り付けた場合は等倍、長い方のMT-2では3倍になります。どちらにせよ、2〜5倍の拡大率を推奨しており、ベローズ+アダプターMT-2の併用で最大9倍まで拡大させることが可能です。しかし、あまり拡大率を高くすると、超望遠レンズのようにミラーがけられることになります。ベローズを使わなくても倍率が高いだけに、撮影はほとんど顕微鏡撮影のように被写体にレンズをぎりぎりまで近付けなければなりません。ですから、アダプターMT-2は円錐形で、レンズに合わせて先端が非常に細いものになっていて、ライティングに配慮した形になっています。絞りはf16までですが、高倍率では回折現象で画質が大幅に落ちてしまうので、これ以上の小絞りはほとんど不必要になります。それ以前に、さすがにこの倍率ですと開放にしても最大に絞り込んでも、大幅な深度の変化は感じられない程になります。ちなみに、実絞り(有効絞り)の計算方法は、レンズで選択したf値に、撮影時の倍率に「1」を加えた数をかけると良いそうです。例えば、このマクロ・トプコール30mmをMT-2アダプター+ベローズに装着して、絞り開放(f3.5)で9倍撮影をすると、選択した絞り地f3.5×(倍率9+1)と言う式になり、結局3.5×10ですから、実絞りはf35になる訳です。この有効絞りがf80に近くなると像が崩れ始めるので、レンズの絞りをf8にして9倍まで拡大すると、良像は得られなくなる可能性が高くなります。もちろん、こうした計算はTTL露出計では不要になりますが、高倍率撮影はかなり暗くなるので、内蔵CDSでは対応し切れなくなる場合も多々あるでしょう。
 このように、高倍率のマクロ撮影ではレンズの通過光量が少なくなる上、このレンズの絞りは手動なので、焦点板はREスーパーに標準で装着されるスプリットイメージや、マイクロプリズムのものでは中心部が真っ黒になって使えなくなります。やはりスクリーンは全面マットや十字線マットなどのタイプが望ましいでしょう。
 ところで、このレンズはREスーパーが発売されて少し経った60年代の半ばになって登場しました。当初は真鍮製でメッキされた鏡胴のものが使われていましたが、70年代にはアルミ鏡胴に変更され、スーパーDMの時代にわずかに黒鏡胴の仕様が作られました。メッキのものはフィルターリングの部分がギラつき、何しろ小さい前玉の面積に対してこれが大きな比率となりますので、あまり感心できません。また、前面の黒いネーム・プレート・リングに色々と文字が入っているのですが、これが狭いスペースに無理やり白文字をたくさん押し込んでいるようで、反射を招く恐れがあります。ですから、艶消しで黒いドーナツ状のリング(画用紙を黒く塗ったもので可)をここにはめ込んで、乱反射の防止を心がけておきたいところです。

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 このマクロ・トプコール30mmは、国内では最初の拡大専用のレンズになりますが、東京光学では古くから優秀なマグナ顕微鏡を作っていましたので、このレンズを開発するのはあまり苦にならなかったと思われます。問題は35mm判の画角をフルにカバーするだけの周辺部の画質と光量のキープと言うところがメインだったでしょうが、この点では一応の解決はなされているようです。しかし、問題が残っていないとは言えないようで、撮影するものや条件によっては、どうしても周辺部の像の流れが微妙に確認される場合もあるようですが、こうしたレンズでは概ね実写で周辺部に焦点を合わせておくことはまずないので、使っていてまず気にはなりません。実際、作例は2千円札をマクロ・トプコール30mm+アダプターMT-2+蛇腹IV型を用いてトプコン・スーパーDMで撮影したものですが、どの色も良く再現されていているのではないでしょうか。また、f5.6で撮影しましたが、シャープネスもコントラストもきちんとしていて、四隅も光量低下や像の流れ等の問題はほとんど見られませんでした。さすがに拡大率が高いので、人の目では確認できないようなものが見えてきますが、立体的なものではピント面とそうでない部分の差が激しく、急激に前後がボケますので、被写体が何であるか良く分からなくなることさえあります。発色面では問題なさそうですが、実際に自分の目でそんなに拡大して見たことなどないので、正直言ってそれが正しい発色かどうか自信を持って断言できないのが苦しいところです(笑)。ただ、70年代に入って他社から徐々に拡大専用レンズが登場しても、このマクロ・トプコール30mmを使う専門家が多かったのは、その堅実な作りとマクロに強い東京光学のレンズと言う信頼感に加え、写りの良さを実感していたからなのでしょう。
 以上が60年代半ば〜70年代にかけてその優秀性を認められたトプコン・マクロシステムの全貌ですが、もしREスーパーをお持ちで、REマクロ・オート・トプコール58mmをお持ちでない場合は、是非とも一つ入手されてみてはいかがでしょうか。持っていて決して損のないレンズであると言えるでしょう。
注:こちらのページで用いたカメラ・テスト撮影画像は、元の画像がPCのHDD故障により消去されてしまい、別のPCにプリントスクリーンでコピーしてつなぎ合せたページの全体画像が残っており、そこから切り取ったものですので、画像が多少劣化していることをご承知下さい。

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