TOPCON CLUB(トプコンクラブ)〜トプコンよもやま話2

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オートワインダーの話
 TALKING OF TOPCON AUTO WINDER

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 オートワインダーの定義は難しい。単に自動巻上げといってもモータードライブとの重複があるからである。どこまでがオートワインダーで、どこからがモータードライブなのかは、客観的に定義付けることは不可能である。漠然と、その巻上げ速度や巻上げ方式の違いによって分類するような感覚があるが、これも定かでない。
 オートワインダーの概念は1973年のトプコンスーパーDMの登場によって初めてもたらされた。その後70年代の後半になって各社ともそろって生産するようになるのだが、その発想は厳格に統一されておらず、各社独自の感覚で作られた。たとえば、アサヒペンタックスではME・MX用にワインダーが供給されたが、ME用は1.5コマ/秒、MX用は2コマ/秒であるのに対し、MX用モータードライブは最高5コマ/秒であった。しかし、このスピード差がワインダーとモードラの違いなのかというと疑問符がつくのだが、それは同社のフラッグシップ機であったK2DMD用のモードラが最高2コマ/秒であったからである。縦走りシャッターを用いていたからどうしても遅くなってしまったのだろうが、とにかく、巻き上げスピードから見る限り、K2DMDでモータードライブと称していることは、MXの2コマ/秒のものをワインダーと称することと矛盾する。
 では巻上げ形式上で分類すれば良いのかというと、これもバラバラでまとまりがない。78年頃の各社のオートワインダーの巻き上げシステムを見てみると、連続巻上げ機構のみのモデルはキャノンAE-1用、ミノルタXD・XG-E用、ヤシカFR-1用の三機種で、一コマ巻き上げ専用のものはフジカAZ-1用、オリンパスOM-1/2用、そしてトプコンスーパーDM用、同RE300用がある。また、連続/一コマの切り替えが出来るモデルはペンタックスME・MX用とコンタックスRTS用がある。このように、巻上げ形式でも各社とも独自の発想があり、一つに定義付けることは出来ない。
 しかしながら、この両者を分断する大きな境界線がない訳ではない。それは消費電力である。充電式Ni-Cd電池となるとちょっと分かりづらくなるので、ここでは単三電池の使用本数の差で話をさせて頂くが、どのメーカーもワインダーと称するものは単三電池6本以内で、モータードライブの場合は8本以上であったという点である。この間にしっかりとした境目があるのは面白い。ニコンの自動巻上げ装置は一部を除いて「MD-(番号)」という呼び名で統一されていたが、やはりここでもしっかりとした境界はあるようで、ニコマートELW・ニコンEL2用のワインダーAW-1や、EM用のワインダーMD-Eは単三電池6本であるのに対し、最もコンパクトなモータードライブであるFM用のMD-11は、その巻上げ速度からも分かる通り正真正銘のモータードライブで、単三電池8本を要した。よってコンパクトに作られてはいるが、一般のワインダーに比べて装備重量はそこそこ重い。こうした点からも分かることだが、結局のところワインダーとモータードライブの差は大きさや重さと大きく関係しているのであろう。やはりトプコンが提唱したシンプルで軽いオートワインダーの基本的概念は、どのメーカーにも浸透していた訳ことになる。
 前置きが長くなったが、トプコンスーパーDMの登場以前にも東京光学には早期からモータードライブは発売されていた。60年代の後半になるとニコン・トプコンの他にもミノルタとアサヒペンタックスでも作られていた。しかし、多くの報道カメラマンに利用されたニコンF用を除き、他のメーカーではあまり生産されなかった。やはりどうしても特殊用途向けという意識が強かったからである。それでもトプコンの場合、かなりの量がUS NAVY向けに出荷されているので、カメラ本体に対するモータードライブの割合はひょっとするとニコンよりも高かったかもしれない。絶対数は足元にも及ばないだろうが。

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 ここで作られていたモータードライブは少々変わったシャッターボタンとの連動機構を持つ。トプコンのカメラはご存知シャッターボタンを前面に配置しているが、モータードライブ側から伸びたアームがシャッターボタンを囲む皿の部分に噛み合い、アームの内側にあるレバーが前後して直接ボタンを押す仕組みとなっている。いわば、正に人間の指の代わりを果たすという構造を採っている。このアームは磁力で前後するのであるが、かなり構造的には苦しかったはずだ。なのになぜこのような面倒な方法を採用したのか。実はこれにはニコンの特許がからんでくる。この頃既にS3Mから始めたモータードライブのシステムをFに至って完成させていたニコンは、裏蓋底蓋そのものをモーター付きのものと交換し、シャッター連動機構を内側に通していた。トプコンは裏蓋交換式ではないので、底にシャッターと機械的に連動するボタンを作るだけでよいはずなのだが、結果としてニコンの構造と同じものとなり、これを避けるため、直接シャッターボタンを押すという構造を採用した訳である。ただし、この方式も過去にライカがV型用ゼンマイ式モータードライブで採用していたが、これはシャッターボタンを下へ引き込むという形式を採っていた。機構的にはトプコンのようにシャッターボタンが前面にあるものよりもかなり簡単に作れるものである。
 では、なぜこうした立派なモータードライブを持ちながら、トプコンではわざわざオートワインダーを開発したのであろうか。それは当時の時流と大きく関係する。
 スーパーDMが開発されていた70年代初め、主に『カメラ毎日』誌などで提唱されていたことであるが、「TEM」というものがあった。これは「TTL・EE・Motordrive」の頭文字で、直接撮影者が行うこと以外の作業は全て自動化するべきであるという発想である。考えてみるとこれが現在のオートフォーカスカメラに発展しているのであるが、当時のカメラでこれを達成していたカメラは皆無であった。トプコンREスーパー系のカメラに自動露出を組み込むのは大仕事であるが、大きなモータードライブは用意していた。せめてこれだけでもコンパクトにできないものかと考えた訳だ。ここではあくまでも一般撮影の補助を目的として考えられ、小型軽量でシンプルなものであるとともに、購入しやすい金額のものを製品化した。結果として連写機能は省略され、シャッターボタンとの連動機能は電気式接点を採用し(初の試み)、カメラに装着しても全く違和感のないものに仕上がったのである。単三電池は四本のみ使用。グリップを握ると自然とシャッターボタンに指が掛かるように、その作りはとても後から設計されたものとは思えないほどである。
 スーパーDMと同時に発売されたこのオートワインダーであるが、当初はかなり雑誌でたたかれたようである。それまで、ワインダーの概念が一般の人々にはなかったからとはいえ、『アサヒカメラ』では特にきつい評価を受けていた。そこでは「ドクターのひとりは、あまりにおそいので、途中からワインダーをはずして手巻きで撮影したほどだ」とか、「シャッターボタンを押したままの連続巻き上げが可能ならいざ知らず、数カットかフィルム一本の範囲ならゼンマイ仕掛けで充分ではないだろうか」などと書かれていた。これは、その後のワインダーブームが到来して、どのメーカーも付属品に加えるようになり、消費者もそれを望んでいたことからも分かるように、トプコンの採った方向性は決して間違いではなく、却って先に進み過ぎていたため、その発想が一般に理解されるのに時間がかかったことを表す結果となっている。それにしても、このように厳しい書き方をされると、読者はどうしても鵜呑みにしてしまい、トプコンの優秀性に気付かないばかりか、トプコンを低レベルのメーカーであるかのような印象を持ってしまうことになりかねない。トプコンの生産が落ち込んできた頃のことなので、それに追い討ちをかける結果になったことも事実であろう。ちなみに『写真工業』誌では、その優秀性が認められていた。
 ところで、このワインダーの性能は他のメーカーから後に発売されたワインダーと比べて、どの程度のものであったのだろうかというと、これについては『日本カメラ』78年9月号に詳しく述べられている。そこでテストされたデータを見ると、巻き上げ速度はおよそ0.5秒弱で、平均的なレベルである。巻上げ音は小さい方に入る。電池は四本なので、その重量はかなり軽い方に入るが、他のメーカーのものと異なり、ボディパーツにプラスチック部品は用いられていない。当然ギア回りにもプラスチックのものは使われておらず、耐久性は抜群である。あるカメラ修理店の主人に伺ったのであるが、最近になってキャノンAE-1等のワインダーのプラスチックギアは硬化して亀裂が入り始めたものが多くなってきているとのことである。トプコンのものはその心配がないので、今後も気楽に使える点が嬉しい。
 しかし、欠点も多いことは事実である。私が使っていて最も気になるのは、ワインダーを取り付けるとカメラ本体の露出計のスイッチが隠れてしまうことである。試作品では裏蓋開閉ボタンのために空けられた穴の面積が広く、露出計のスイッチの部分にまで指が届くように作られていたが、市販品はその面積が狭められ、露出計のスイッチはワインダーを外さざるを得なくなっている。強度の問題なのかもしれない。また、三脚に取り付ける際、電池ケースの部分を下に開けてから三脚座に取り付けるのであるが、このネジ穴の深さが浅いので、気を付けないとカメラの底部に三脚のネジの先が当たってしまい、傷つく恐れがある。もう一つ、後期のDMのボディを除き、ワインダーを取り付けると巻き上げレバーが使えなくなってしまうのも欠点である。ほとんどレバーで巻き上げることはないのであるが、いざという時には使える方が良いのは当然である。
 スーパーDMは後期になると小変更がなされ、巻き上げカプラー(ワインダーの回転するギアとの接点)がそれまでの皿の両端に切り欠きを入れただけの単純なデザインのものから、各切り欠きの回転方向とは逆の部分が削り取られ、なだらかな斜面になっているものに取り換えられた。横から見ると直角三角形のようなデザインである(上面は少し平らであるが)。こうすることで、カメラ側とワインダー側のカプラーが噛み合っていなくても、それまでのようにワインダーを回転させてかみ合わせる作業は不必要になり、ただ取り付ければ勝手に止まるまで回ってくれる仕組みになった。そのためワインダーからは噛み合せ位置調整用のボタンが排除され、その名も「オートワインダーS」と変更された。このカプラーが付いたものであれば、レバー巻き上げも可能である(かなりぎこちないのでお勧めはできないが)。

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 さて、77年、トプコンRE300が発売されると同時に、オートワインダーIIもデビューした。こちらは機能的にはスーパーDM用のものに比べて洗練されているが、デザイン面から見ると後退しているようだ。単三電池六本使用なので、どうしても前後の幅がカメラのボディの底面より広くなってしまい、デザインの統一性の点ではマイナスである。その反面巻き上げトルクはかなり強く、約0.35コマ/秒の巻上げ速度を持つ。ただし、かなり巻き上げ音は大きい。材質もプラスチックパーツを多用しており、安っぽい印象を与えるが、考えてみるとこの頃のワインダーは各メーカーともこのような作りであったことは事実であり、それからするとスーパーDM用のものはかなりしっかりした作りであると言える。
 さて、このようにいつの時代も最先端のアイデアを持ち、それを世に問うて来たトプコンであるが、利益という面では何れも会社に大きな貢献は果たせなかったようであった。先に現れるものはとかく苦しい思いをする。しかし、実益にこそならないものの、それが正しい方向性を持つ限り、歴史に大きな足跡を残すことは事実である。トプコンの場合、こうした例が多すぎるようだ。世界初のクイックリターンミラー付きレンズシャッター式一眼レフのウィンクミラー。同様にレンズの全群交換式であるとともに、自動露出も完成したウィンクミラーS。これまた世界初のTTLで、開放測光でさえあったREスーパー。さらには、TTL-EEもユニが初めて達成した快挙であった。この他にもたくさんの新しい試みがなされており、いずれも後のカメラに与えた影響はとても大きい。ここで紹介したオートワインダーの概念についても同じことが言える。結果として“実より名を取る”ことになってしまったが、こうした点も我々トプコン党員の心を強く惹き付ける一つの要因になっているのかも知れない。

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